はっしいの日記 激流下り 後編

 

  

  いよいよスタートだ。ちょうど川の真ん中に100年前から存在するような朽ち果てた木で出来た橋がある。その橋にロープでボートをくくりつけてスタートするのである。安全のためにヘルメットとライフジャケットを装備する。下にはウェットスーツを着ているのでまず溺れることはない。ちなみにその日は暑かったのでウエットスーツは肩から袖がないロングジョンタイプを選んだ。広瀬さんは普通のワンピースで完全防備である。その姿を見て「暑ないんかな〜」と思いながらも準備を進めた。しかしこの選択は私が間違っていたということをあとで思い知らされることになる。全ての準備が整い、いよいよボートに乗り込んだ。前は広瀬さんで後ろは私である。やることといえばオールを持って沿岸にぶつからないようにするだけである。何とも単純かつシンプルなスポーツだ。

  「ロープをはずせ!!」広瀬さんの合図とともに私はロープを橋から取り外した。その瞬間首がもげるほどの「G」がかかった。 思っていたよりも速い。ほんの数メートル進んだだけで早くもボートが回転して前と後ろが入れ替わった。幸いにもこのボートはどちらが前でも進むことには問題がないので自分たちの体勢を変えて行くだけでよいのだが、めちゃくちゃ忙しい。さらに水の勢いが凄すぎてボートが安定しないのである。私のパソコンのスクリーンセーバーのようにめまぐるしく動いている。はっきり言ってオールは意味がなかった。ただボートが突き進む方向に体勢を直していくだけである。 もはや邪魔者となったオールをボートのシートの下に隠す。後はどうにでもなれって思った。

  その瞬間、「ゴーーーー!!」という重低音が耳を突き刺さった。滝である。まぁ滝と言っても2m位のものであるが楽しみと恐怖が葛藤していた。ボートを垂直に立て直し滝に挑む。一瞬目の前の景色から水が無くなり何とも言えない浮遊感を感じる。「バシャーン」という音とともに滝壺に落ちる。重力に身を任せたままの体勢で水に突き刺さる。滝壺に付いた瞬間体が90度に曲がった。中国雑技団並の激しいアクションである。本来ならまっすぐ突き刺さるだけだが、ゴムボートのためにボートと同じように体も影響を受けてしまうのだ。これが結構きつい!!そして3つほど同じ様な滝をクリアして疲れ切った頃、第二の恐怖がやってきた。連日の雨で川の周りの木や枝、竹等が川を覆い被さっている。ボートは私の意思とは別に竹藪の中に突き進む..。もう体を丸くして耐えるしかすべはなかった。

  「バキベキブチボチ〜!!」プチプチくん(ビニールの丸いクッション材)を一気につぶしたような音が鳴り響く。そしてようやく竹藪から脱出するとそこら中が痛い。大腕部をみると枝の破片がいくつか突き刺さっていた。ひとつづつ取り除いていくとそこから酸素を多く含んだ真っ赤な血が「ピュー」っと出てくる。映画「ランボー」を思い浮かべながら。早くこの長編大作が終わることを願った。そしてさらに突き進む....。滝の音が聞こえてくる度に寿命が1年ずつ減っていくような気がした。そして前方に橋が見えてきた。

  そのとき広瀬さんは信じられないことを口にしたのである「やっと3分の1まできたな〜!」一瞬自分の耳を疑ったが、確かに橋の横に見える看板は見覚えがあった。気を抜いた瞬間ボートが横向けになった。やばい!!橋げたは目の前である。ちょうど、ボートの真ん中に橋げたが突き刺さった。一瞬にして二人は投げ出された。私は50mほど流されたが広瀬さんはボートにしがみついている。ボートは橋げたに折れ曲がる形でブーメランのような形になっていた。このままでは、ボートよりも橋が壊れてしまう。弁償になったらとんでもないことである。当然保険は利かない。急いで川沿いからあがって戻って直した。橋は無事だった。再出発である。そしてまたまた滝である今まで何回か滝越えをしてきたが今度は雰囲気が違った。音がでかいのである。「ゴーーー!!」急いで体勢を立て直そうとしたが、焦ると何をしてもだめである。滝を目前にしてボートは非情にも横向きになった。そして投げ出された。目の前が茶色の世界となった。沿岸に流れ着いてボートを見ると、修行僧のように滝壺に打たれている。何回か脱出を失敗しながら(水の流れが回り込んでいるため)なんとか出発できた。一息ついて広瀬さんに「後いくつぐらいで滝はなくなるんですかね?」と聞くと「ほやな〜。あと5個位で終わったらええんやけどな。」予想とは違った曖昧な返答だった。「和迩川って何回くらい川下りしているのですか?」当たり前のように広瀬さんは答えた「こんかい初めてや〜!!」思わず気を失いそうになった。いままで、下調べもしていない所を下ってきたのである。もしかしたらさらなるでかい滝があっても不思議ではないのである。

  それからいくつか滝をクリアしてようやく川が広くなり水流も緩やかになってきた。安堵感とともに体の節々が痛いのを感じられるようになった。いよいよ琵琶湖が見えてきた。バス釣りをしている人が注目している中を二人で「ファイトー!!イッパーツ!!!」と叫びながら最後の締めをした。ボートを置いて近くの誰も買わないようなビールの自動販売機でビールで乾杯する。これがめちゃくちゃうまい。おそらく今まで飲んだビールの中で一番うまかったような感じがした。

  警告;川下りをする人は必ず下調べをしましょう!!良い子はまねをしないように!!